セミナーレポート

人的資本経営の実現に向けて~360度フィードバックデータの作り方、活かし方、運営の仕方

2024年3月、半蔵門オフィス代表の南雲道朋氏と弊社代表の深井幹雄によるオンラインセミナー「『人的資本経営』の実現に向けて 〜360度フィードバックデータの作り方、活かし方、運営の仕方」を開催しました。2023年3月期決算から人的資本の情報開示が義務化されるなど、上場企業において人的資本経営は大きなテーマになっています。人的資本経営強化に向けて360度フィードバックデータをどのように活用することができるのか、具体的なイメージを描いていただくことが本セミナーの目的です。

リモートワークの普及やグローバル化の促進により、企業は多様なバックグラウンドを持つ人材一人ひとりの力を引き出すことが求められるようになりました。そこで重要になるのが、組織が個々の能力やスキルを把握し、それを最大限に発揮できるようにする「人的資本経営」です。本セミナーでは、人的資本経営を実現するための360度フィードバックデータの活用方法を説明しました。

360度フィードバックデータがもつ「個人向け」「組織向け」2つの活用方法

360度フィードバックのデータ活用には、大きく二種類あります。「個人へのフィードバック」と「組織としてのデータ活用」です。メインスピーカーの南雲氏は、個人へのフィードバックのポイント「強みを活かし、弱みを意識的に補うこと」「一人ひとりが必ず強み・弱みの組み合わせを持っていること」の二点だと話します。

では、個人の強み・弱みを組織内でどのように活かしたらいいのでしょうか。「強みとは、経済学における『比較優位』のコンピテンシー(優れた成果を出す人に共通する行動特性)である」と南雲氏。比較優位とは、イギリスの経済学者であるデヴィッド・リカードが提唱したもので、他者に任せられるものは任せて、自身の生産性を最も高めることができる仕事に注力することで、社会全体の生産性が高まるという考え方です。他者と比較して、自分が相対的にどの能力が高いのか、そしてその能力をどんな仕事に活かすことができるのかを個人が把握することが組織の競争力強化につながります

比較優位のコンピテンシーを把握するには、「点数順」ではなく「偏差値順」で見る必要があります。組織やチームの中で、自分がどこに位置するのかを知るのです。南雲氏は架空の対象者のデータを例に、3つの個人向けレポートを紹介しました。

【レポーティング】強みを活かして弱みを補うことを提案する

まず、項目ごとの偏差値を比較することで相対的な強み・弱みを特定します。例えば、30項目の中から偏差値の高い項目( = 相対的な強み)と偏差値の低い項目( = 相対的な弱み)を明確にします。

以下のサンプルデータを見ると、斉藤さん(架空の人物)の相対的な強みは「法令規則遵守」と「反対意見の傾聴」、弱みは「継続的学習」と「高い目標に挑戦」であることが分かります。

次に、強み・弱みの組み合わせから、効果的な行動改善方法を導き出します。斉藤さんの場合は、一番の強みである「法令規則遵守」を活かして、弱みの「継続的学習」を克服する方法を考えます。

この際、レポーティングを効率化する方法として、生成AIの活用が紹介されました。テキストを使った対話AI「ChatGPT(チャットGPT)」を用いて、行動改善のアイデア出しを行う方法です。ChatGPTからは「法令や規律を遵守する力を活かし、その知識をもとに継続的な学習計画を立て、自分のスキルアップに務める」など、学習計画をルール化し、そのルールを遵守することで弱みを克服するアプローチが提案されました。

自己評価と他者評価で、強み・弱みの認識が異なることはよくあります。そんなとき、認識のギャップを紐解くことで、その人が活躍しやすい方向へと導くことができます。下のスライドは、自己評価による強みを縦軸に、他者評価による強みを横軸に据えたものです。

斉藤さんのケースでは、「部下に助言指導」「成果や成功賞賛」を本人は強みと捉えていますが、他者評価では弱みに該当しています。一方、「困難に冷静対応」「論理的な伝達」「問題の原因分析」などは本人の認識に反して他者からの評価が高い項目です。他者評価が低い項目を克服する方法を考える、というのも一つの手段ですが、本人の自覚がないだけで実はすでに他者から評価されている強みを組織で発揮していく方向に導けば、斉藤さんはすぐにでも活躍できる可能性があります

チーム内の役割分担や組み合わせの妙をシミュレーションする

次に、個人のフィードバックデータをチームに展開していく方法が紹介されました。ここでは架空の6名の執行役員チームを想定し、360度フィードバックのデータを用いて役割分担を見直すことにします。

まずは執行役員チームとして必要な30項目のコンピテンシーを、「比較優位」の考え方を用いて各人に割り振っていきます。6名の中には、全体的に偏差値の高い人もいれば低い人もいますが、ポイントはあくまでも各人の中に偏差値の高いものと低いものがある点です。全ての項目が誰かの強みに該当するとは限らないため、「偏差値の高い項目から割り振ったあとは、『この項目はあなたの何番目の強みですか?』『私の中の順位が一番高いようなので、私が担当しましょう』と決めていくのがよいでしょう」と南雲氏はアドバイスします。

こうして6名全員の相対的な強み・弱みを整理してみると、それぞれの執行役員が担うべき役割や、キャラクター像が浮かび上がってきます。例えば、東営業本部の富沢さんは「組織方針の提示」や「創造的な企画」を相対的な強みとしており、全体の方向性を決め、部下に的確に伝える役割が適していることが分かります。

導き出された役割に関して、生成AIを活用することでリーダーをイメージした画像(※画像下部の「そのイラスト表現部分」を参照)としても表すことができます。このようにキャラクター化をすることで、より分かりやすくすることも個人の強み・弱みにフォーカスする工夫の一つです。

このように360度フィードバックのデータを用いることで、客観的に個々の強み・弱み、適した役割、適したチーム構成を導き出すことができます

データに基づいて再編成することは、それぞれが担うべき役割やミッションの裏付けが得られるだけでなく、役員自身や取締役会に対しても有益な情報を与えることになるでしょう。南雲氏は「従来はフィードバックデータからここまで落とし込むのに、かなりの工数が必要でした。現在は360度フィードバックのデータと生成AIを活用することで、非常に簡単にまとめられるようになりました」と、本パートを締め括りました。

人材マップで組織全体を鳥瞰する

個人の特徴、その組み合わせであるチームに対するデータ活用方法の次は、いよいよ組織としてのデータ活用です。ポイントは「組織全体を鳥瞰(ちょうかん)すること」。「一人ひとりの特徴を高い視点から把握し、それを人材マップという形で落とし込んでいきます。人材マップをもとにすることで、個人の強み・弱みを生かした適材適所の配置ができているのかどうかチェックすることができます」と南雲氏は説明します。

例えば、チームメンバーの強みを「業務面」と「対人面」の二軸で見てみます。下の図は、縦軸を業務面、横軸を対人面とし、執行役員である富沢さんの部署メンバーがどちらに強いのかをまとめたものです。黒く塗りつぶされた四角マークは部長、白い四角マークは課長を表しています。この人材マップからは、執行役員の富沢さんは業務面に強く、その周りを業務面・対人面ともに周囲から高く評価されている部長たちが固めていることが分かります。このようにスキルを組み込んだ人材マップを作成することで、盤石な組織体制を築くことができます。ほかにも、本セミナーでは「上・同位者からの評価」と「下位者からの評価」をまとめた人材マップや、パワハラリスクをチェックするための人材マップなども紹介されました。

人的資本価値を向上させるために人事がすべきことは?

セミナー後半では、こうした360度フィードバックデータを活用した適切な人材配置が人的資本経営においてどのように活かされるのか、360度フィードバックが果たす機能と役割について語られました。

まずは2020年に経済産業省が公表した『人材版伊藤レポート』(『人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書』の通称)や、実践編にあたる『人材版伊藤レポート 2.0』、そして2022年に内閣官房が公表した『人的資本可視化指針』の概要が紹介されました。

これらの文献を踏まえて、人的資本とは「個々の人材価値」を足し合わせた以上のものとしての「人材価値の総体」であり、人材価値をエンゲージメントとタレントマネジメントで押し上げたものである、と定義付けられました。

では、人的資本価値を向上させるために、人事はどんなことに取り組むべきでしょうか。南雲氏はエンゲージメントとタレントマネジメントを客観的データと主観データに分け、人事が取り組むべき内容を下記のように整理しました。

人事のキーワードは HRBP(HRビジネスパートナー)。すなわち経営人事です。HRBPは、エンゲージメント向上とタレントマネジメントにサーベイと360度フィードバックを活用していきます。ポイントは、客観・主観データの両方を活用することです。「主観データが特に重要です。エンゲージメントとは社員の認識や想いであり、タレントマネジメントは周囲からの評価が正確であることが多いそのためにサーベイ(社員意識調査)と360度フィードバック(多面評価)の両方を活用する必要があるのです」と南雲氏。

 下の図はエンゲージメントとタレントマネジメントに内包される各項目と360度フィードバックの寄与を洗い出したものです。該当項目を見てみると、360度フィードバックが両者に関与しているかが整理されています。

最後に、南雲氏は「個人の育成だけでなく、エンゲージメントを高めるために職場のカルチャーを変えていく仕組みとしても360度フィードバックが効きます目的をはっきりと示して実施していくのが得策です」と断言。人的資本経営に360度フィードバックが効果を発揮すると結論付けました。

登壇者紹介

南雲 道朋 半蔵門オフィス 代表

東京大学法学部卒業後、日系大手電気通信メーカーのソフトウェア開発企画部門、外資系コンサルティング会社にて現場再生のコンサルティングに従事。
1998年以降、マーサージャパン、HRアドバンテージ、トランストラクチャなどにおいて人事・組織に関するコンサルティングや関連するウェブソリューション開発をリード。その経験の総まとめのために、2018年に半蔵門オフィスを設立。
著書に、『データ主導の人材開発・組織開発マニュアル』(経営書院)(2021/3)がある。

 

深井 幹雄 株式会社シーベース 代表取締役

1995年エン・ジャパン入社。執行役員として新卒サイト、派遣サイト、エージェントサイトの事業部長を経験。
2017年シーベースの代表取締役に就任。年間100社を超える企業を訪問し、組織開発、人材開発の課題解決をサポートする。

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