ワークエンゲージメントとは?高めるための資源や効果的な取り組みを解説
「最近、社員に元気がない気がする」「もっと主体的に仕事に取り組んでほしい」。
多くの企業が、このような課題を抱えているのではないでしょうか。
2025年の今、人材の流動化や働き方の多様化が加速するビジネス環境でその解決策となるのが、近年注目されている「ワークエンゲージメント」という考え方です。
単なる仕事への「やる気」や「従業員満足度」とは少し違う、さらに深い心理状態を指す概念です。従業員一人ひとりが仕事に熱意や誇りを持ち、活き活きと働いている心理状態を指します。
このワーク・エンゲージメントという概念を理解して向上させることには、多くのメリットがあります。
この記事では、そんなワークエンゲージメントの基本から、どうすれば高めることができるのか、その具体的な方法までを最新の視点も交えて分かりやすく解説します。
自社の従業員にもっと輝いてほしい、そして企業をもっと元気にしたいと考えている人事担当者や経営者の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
ワークエンゲージメントとは?
「ワークエンゲージメント」という言葉は、具体的にどのような意味なのでしょうか。
ここでは、その基本的な定義から似たような言葉との違い、企業にもたらすメリットまで見ていきましょう。
仕事への熱意・活力・没頭の3要素で構成される
ワークエンゲージメントは、オランダのユトレヒト大学のウィルマー・B・シャウフェリ教授によって提唱された概念で、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」のことです。
一時的な気分の高まりではなく、仕事に対する持続的な前向きな感情と認知を指します。
具体的には、次の3つの要素で構成されている状態と言われています。
【活力】
仕事からエネルギーをもらって、活き活きしている状態です。
【熱意】
自分の仕事に「やりがい」や「誇り」を感じていて、意義のあることだと感じている状態を指します。
【没頭】
仕事に夢中になっていて、時間が経つのも忘れるくらい集中している状態のことです。
この「活力」「熱意」「没頭」の3つがバランスよく揃っていることが、ワークエンゲージメントの高い状態と言えるでしょう。
仕事への貢献意欲の有無が従業員満足度との違い
ワークエンゲージメントを理解する上で、よく似た言葉との違いを把握しておくと、よりイメージが湧きやすくなります。
従業員満足度(ES)は給与や福利厚生、職場環境など、企業から与えられるものに対する満足感のことです。
一方、ワークエンゲージメントは「この会社のためにもっと頑張りたい!」という、従業員から組織への自発的な貢献意欲が含まれる点が大きな違いでしょう。
満足度はエンゲージメントの土台ではありますが、満足しているからといって、必ずしも貢献意欲が高いとは限らないのです。
生産性の向上・離職率の低下・イノベーション促進など
ワークエンゲージメントを向上させることは、企業にとって多くのメリットがあります。
- 生産性の向上と業績アップ:活き活きと働く従業員が増えれば、一人ひとりのパフォーマンスが上がり、結果として企業全体の生産性や業績の向上につながります。
- 離職率の低下と人材の定着:仕事にやりがいを感じている従業員は、自社への愛着が湧き、離職しにくくなります。
- 顧客満足度(CS)の向上:従業員が自社の商品やサービスに誇りと熱意を持って接すれば、その気持ちは顧客にも伝わり、顧客満足度の向上に結びつくでしょう。
- イノベーションの促進:エンゲージメントの高い従業員は、より良くしようと自発的に新しいアイデアを出す傾向があり、それが企業の成長の原動力になります。
- 従業員の心身の健康:仕事にポジティブに取り組むことで心理的なストレスが軽減され、メンタルヘルスの不調を防ぐ効果も期待できます。
これらのメリットは、組織の持続的な成長にとって欠かせないものばかりですね。
ワークエンゲージメントを高める2つの資源
では、どうすればワークエンゲージメントを高められるのでしょうか。
そのヒントとなるのが「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)」という考え方です。
これは、職務における「負担(仕事の要求度)」と、それを乗り越えるための「支援(資源)」のバランスが、社員の心の状態を左右するというモデルです。
この「資源」には企業が提供するものと、社員自身が持っているものの2種類があります。
上司の支援や公正な評価など会社が提供する「仕事の資源」
「仕事の資源」とは、目標達成を助けたり、仕事の負担を軽くしたり、個人の成長を後押ししたりする、企業や職場の環境からのサポートのことです。
例えば、以下が代表的な「仕事の資源」の例です。
- 上司や同僚からの支援:困ったときに相談できる上司や同僚がいること。
- パフォーマンス・フィードバックと公正な評価:頑張りをしっかりと見てくれて、的確なフィードバックや納得感のある評価をしてくれること。
- 仕事の裁量権:ある程度自分のやり方で仕事を進められること。
- 成長とキャリア開発の機会:スキルアップできる研修や、将来のキャリアを考える機会があること。
これらの「仕事の資源」は大変な仕事のストレスを和らげるだけでなく、挑戦的な仕事に取り組むときに、やる気をさらに引き出すブースターのような役割もしてくれるのです。
自己効力感や楽観性など社員自身が持つ「個人の資源」
「個人の資源」とは、従業員一人ひとりが持っている内面的な強みやポジティブな自己評価のことです。
例えば、以下が代表的な「個人の資源」の例です。
- 自己効力感:「自分ならできる!」と思える自信のこと。
- 楽観性:物事を前向きに捉え、良い結果を信じる力。
- レジリエンス:失敗や困難から立ち直る、心のしなやかさ。
- 自尊心:自分は組織にとって価値のある存在だと感じられること。
この「個人の資源」は、「仕事の資源」によって育まれることが分かっています。
例えば、上司からの励ましの言葉(仕事の資源)が、部下の自己効力感(個人の資源)を高める、というように、どちらも密接に関係しているのです。
ワークエンゲージメント向上に効果的な会社の取り組み
理論が分かったところで、ここからは実践編です。
人事や管理職が明日からでも実施できる、効果的な取り組みや施策をご紹介します。
経営層からのビジョン共有と1on1での対話
従業員が「この会社で頑張りたい!」と思うためには、企業の目指す方向と個人の仕事がつながっていると感じられるコミュニケーションが必要です。
- 経営層からのビジョン共有:経営トップが企業の夢や目標を自分の言葉で熱く語ることは、従業員の心に火をつけ、「熱意」を生むことができます。
- 1on1ミーティングによる対話:上司と部下が1対1で定期的に話す1on1ミーティングは、企業のビジョンと個人の業務を結びつける良い機会です。
心理的安全性の確保と納得感のある評価制度の構築
従業員が能力を最大限に発揮するには、失敗を恐れずに挑戦できる環境が欠かせません。
【心理的安全性の確保】
「このチームなら、どんな意見を言っても大丈夫」「ミスをしても責められない」と皆が感じられる職場のことです。
心理的安全性が高いとコミュニケーションが活発になり、新しいアイデアが生まれやすくなります。
【納得感のある評価制度の構築】
従業員が「自分の頑張りが正当に評価されていない」と感じると、エンゲージメントは大きく低下してしまいます。
評価の基準が明確でプロセスが透明、そして結果についてしっかりとフィードバックがある、納得感のある人事評価制度を作ることが重要です。
この2つの要素はセットで考えることが大切です。
公正な評価制度という土台があってこそ、従業員は安心して挑戦できる、つまり心理的安全性が確保されるのです。
挑戦的な目標設定と研修による成長機会の提供
人は少し背伸びするくらいの目標に挑戦し、それを乗り越えたときに最も成長します。
【挑戦的な目標設定】
本人の能力を少しだけ上回る「ストレッチ目標」は、成長を促す良い刺激になります。
達成できたときの成功体験は、大きな自信につながるでしょう。
【研修による成長機会の提供】
企業が従業員の成長に投資してくれることは、「大切にされている」という強いメッセージになります。
スキルアップのための研修やトレーニングは、挑戦を後押しする強力なサポートです。
【ジョブ・クラフティングの推進】
従業員自身が仕事をより面白く、やりがいのあるものへと工夫していく「ジョブ・クラフティング」という方法も注目されています。
これは「業務のやり方」「人間関係の作り方」「仕事の捉え方」を主体的に見直す取り組みです。
ワークエンゲージメントの測定と改善サイクル
ワークエンゲージメント向上の取り組みは、「やりっぱなし」では意味がありません。
効果が出ているかを測定し、改善を続けていくことが大切です。
UWESやパルスサーベイを使い組織の状態を数値化する
組織の現状を客観的に把握するために、いくつかの便利な測定ツールがあります。
【UWES】
ワークエンゲージメントを測定するための、世界標準のアンケート尺度です。
年に1回など定期的な「健康診断」のように使うことで、組織の課題を詳しく分析できます。
9項目で手軽にできる短縮版もあります。
【パルスサーベイ】
毎週や毎月など、短い間隔で行う簡単なサーベイです。
組織の「脈拍」をこまめにチェックするように、職場の変化に素早く気づくことができます。
年に一度のUWESで全体像を把握し、日々の変化はパルスサーベイで追いかける、というように活用するのがおすすめです。
調査結果は現場で共有し対話から改善アクションへつなげる
サーベイで大切なのは、結果が出た後です。
「調査して終わり」にしないために、結果を活用して具体的な改善につなげましょう。
ポイントは調査結果を人事や経営層だけで抱え込まず、部署やチームのメンバー全員で共有し、「対話」することです。
管理職はメンバーが本音で話せる場を作り、「なぜこの数値になったと思う?」「どうすればもっと良くなるかな?」といったオープンクエスチョン(開かれた質問)で、主体的な意見を引き出すことが求められます。
ワークエンゲージメントのよくある質問
ここでは、ワークエンゲージメントに関してよくある質問について解説していきます。
ワークエンゲージメント測定の最適な頻度は?
測定の目的に合わせて、複数の方法を組み合わせるのがベストです。
年に1〜2回、UWESのような詳細なサーベイで組織全体の「精密検査」を行い、課題を特定します。
そして、週に1回や月に1回のパルスサーベイで日々の変化を追いかけていくのが効果的でしょう。
向上施策の効果が出るまでの期間は?
ワークエンゲージメントの向上は、一朝一夕にはいきません。
組織の文化を変えるには時間がかかるため、年単位での継続的な取り組みが必要になることも珍しくないのです。
効果を実感できるまでに3年近くかかる場合もあるため、焦らずじっくりと取り組む姿勢が大切です。
従業員満足度とどちらを優先すべき?
これは「どちらか」という二者択一の問題ではありません。
まずは、給与や職場環境といった基本的な不満を解決し、「従業員満足度」という土台をしっかりと固めることが最優先です。
その上で、従業員が「もっと貢献したい」と思えるような、ワークエンゲージメントの向上を目指していく、というステップで検討するのが良いでしょう。
【まとめ】ワークエンゲージメントは会社と社員が共に育むもの
この記事では、ワークエンゲージメントという概念について、その定義から向上のための具体的な取り組みまで、多角的に解説してきました。
ワークエンゲージメントとは、「活力」「熱意」「没頭」に満ちた、仕事に対する前向きな心理状態のこと。そして、エンゲージメントの高い組織は生産性が上がり、従業員が辞めにくくなるなど、多くのメリットを得ることができます。
大切なのは、ワークエンゲージメントは企業が従業員に一方的に与えるものではなく、会社と社員が共に育むものだということです。
経営層は企業のビジョンを語り、管理職は部下の成長を支援する。そして従業員一人ひとりも、自分の仕事をより面白くしようと工夫する。こうした全員の取り組みが活気あふれる職場、そして企業の持続的な成長へとつながっていくのです。