360度評価の導入企業4選!成功事例と失敗する原因から学ぶポイントとは?
360度評価は、今とても注目されている人事評価の手法です。上司だけではなく、同僚や部下からも評価をもらうことで、より多面的に自分の強みや弱みを知ることができるメリットがあるため、導入する企業が増えています。
しかし、いざ導入しても、上手に運用できなければ意味がありません。中には、「社内の人間関係が悪くなった」「かえって社員のモチベーションが下がった」というような失敗例もあります。
これから360度評価の導入を検討している企業であれば、そういった失敗例や成功例から学ぶことが効果的です。
そこでこの記事では、360度評価の導入に成功した企業の事例を紹介すると同時に、360度評価が失敗する原因も解説していきます。
成功事例と失敗の原因の両方を知ることで、これから導入を考えている企業でも360度評価を最大限活用するためのポイントが抑えられるはずです。
目次
360度評価の導入企業
自社の組織文化や課題に合わせ、様々な工夫を行いながら360度評価を活用している企業は数多くあります。
そして、それぞれの取り組みを見ることで、360度評価の導入を成功させるヒントを得ることができます。
以下では、4つの企業の事例を詳しく紹介します。
・株式会社グロービス
・株式会社ぐるなび
・住友三井オートサービス株式会社
・株式会社マネーフォワード
株式会社グロービス
株式会社グロービスでは、20年以上前から360度評価を導入しています。当初は評価の客観性確保のために導入し、グロービス・ウェイの浸透・体現と業務遂行能力の発揮を評価するために活用していました。
現在は、グロービス・ウェイの浸透・体現のための気づきを与え、能力開発ツールとして活用しています。正社員、契約社員、派遣スタッフなど、オールスタッフを対象に実施しており、対象者は600名ほどになっています。
実施するにあたり、「ギフトの発想で実施してほしい」ということを強調しており、周りの人が建設的なフィードバックをすることで、評価を受けた人が自己認識と他者認識のギャップを知り、前向きな気づきを得て、成長のきっかけとなることを目指しているのです。
具体的な活用方法としては、例えば、管理職への昇格を検討する際の参考資料としても使われています。グロービス・ウェイの体現が役職要件に含まれているため、360度評価の結果はその判断材料の一つになっています。
同社の特徴は、オールスタッフを対象に、「ギフトの発想」で実施している点にあります。評価は相手の成長を願って行うものであり、ネガティブなコメントは厳禁だと全員に伝えています。上長との面談も必須とし、結果を踏まえた具体的な行動変容を促しています。
360度評価を通じて、グロービスで働く一人ひとりに会社の理念や大切にする考え方が広まり、深く根付いていくことを目指しており、単なる評価ツールを超えて、組織文化づくりの基盤として長年活用している事例です。
株式会社ぐるなび
飲食店の情報サービスで知られる株式会社ぐるなびでは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、リモートワークを中心とした働き方へと移行しました。その結果、マネジメント力の向上が以前にも増して重要な課題となったのです。
そこで注目したのが、360度評価の活用でした。もともとマネジメント力の底上げを目的に導入していたこの制度ですが、リモートワーク下でその効果を発揮することになります。
「360度評価のコメントを読んで自分の課題に気づき、行動を変えるマネージャーが増えてきた」と手応えを感じており、上司と離れて働くことが多くなり、普段は聞けない部下の生の声に触れる機会となっているのです。
また、評価の匿名性を徹底していることによって、率直なコメントを引き出すことに繋がっています。評価者が特定されることはないため、上司との力関係を意識せずに本音を述べやすい環境が整っているのです。
同社では、今後も360度評価を継続し、リモート勤務下のマネジメントを進化させていく考えです。ぐるなびの取り組みは、これからの時代の新しいマネジメントの在り方を表現している事例です。
住友三井オートサービス株式会社
自動車リース大手の住友三井オートサービス株式会社では、10年近く前から360度評価を実施しており、社内では「多面観察」と呼ばれています。
導入のきっかけは、部下の声を吸い上げ、マネジメントに活かすことでした。上司から部下への一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションを通じて、風通しの良い組織を目指したのです。
部下の声に耳を傾けるリーダーが増えたことで、現場の問題がダイレクトに吸い上げられるようになった効果も大きくなっているようです。足元の声に目を凝らすリーダーを多く輩出できたからこそ、変化の激しい自動車業界でも柔軟に適応できる組織になれたのだと分析しています。
加えて、360度評価をきっかけに、部下の声を吸い上げて新規事業へと展開できる組織に変わっていくことが、事業競争力の向上につながると同社は考えています。
360度評価は組織の風通しの良さに直結するツールだと断言しており、住友三井オートサービスの取り組みは、部下の声を活かしてイノベーションを生み出せる組織づくりの事例といえます。
株式会社マネーフォワード
金融関連サービスを提供する株式会社マネーフォワードでは、急成長に伴う組織の拡大に合わせて、既存メンバーの成長を促すことが重要だと考えていました。特に、メンバーを育成するマネージャーの強化が急務でした。
そこで同社は、マネージャーのスキルアップと共通認識の醸成を目的に、経営層からミドルマネージャー、さらにはその候補者までを対象としたリーダー合宿を実施。その中で360度評価を活用したのです。
導入に際して、同社が360度評価のツールに求めたのは柔軟性でした。ほかにも、社内で使用しているコミュニケーションツールとの連携ができれば、さらに利便性が高まるという期待もあるようです。
リーダー合宿という「場」と、360度評価という「ツール」を組み合わせたマネーフォワードの事例は、管理職の育成として結果を出した事例といえます。
360度評価の導入企業が増えている理由
近年、360度評価を人事評価制度として導入する企業が増えています。
多くの企業が360度評価に注目している背景には、働き方の変化や組織風土の改革といった理由があります。
以下では、360度評価の導入企業が増えている理由を詳しく解説していきます。
・成果主義が浸透したことで公平に評価を行うため
・テレワークによりマネジメントが難しくなっているため
・従業員のエンゲージメント向上のため
・人材育成につなげるため
・管理職のマネジメント能力向上に効果的なため
成果主義が浸透したことで公平に評価を行うため
これまで年功序列型の評価が主流でしたが、近年は成果主義の考え方が浸透してきました。その結果、従業員の頑張りを正当に評価し、適切に評価に反映させることへの関心が高まっています。
しかし、上司一人の主観的な評価だけでは、公平性に欠けるのではないかという懸念があります。
360度評価では複数の評価者が関わるため、評価の偏りを最小限に抑えられます。例えば、上司からの評価が厳しくても、同僚や部下からの高評価でバランスが取れるといったことが可能です。
また、評価基準を可視化することで、社員の納得感も高まります。何をすれば高く評価されるのかが明確になれば、目標に向かって自発的に努力する姿勢も生まれやすくなります。
成果主義を掲げる場合、公平でオープンな評価制度の整備が必要になります。
テレワークによりマネジメントが難しくなっているため
テレワークの普及に伴い、上司と部下が物理的に離れて働くケースが増えてきました。直接顔を合わせる機会が減ると、部下の日々の頑張りが見えづらくなってしまいます。
特に、他部署との協力や社外との折衝など、上司の目に触れない場面での活躍を適切に評価するのは簡単ではありません。
360度評価であれば、普段は見えない部下の仕事ぶりも多面的に捉えられます。同僚や関係部署の社員など、日常的にコミュニケーションを取る人たちの意見を集めることで、上司が知らない情報も評価に反映できるのです。
マネジメントの目が行き届きにくい状況だからこそ、多くの企業が360度評価に注目しています。
従業員のエンゲージメント向上のため
従業員のエンゲージメントを高めることは、企業にとって重要な課題です。そんな従業員のエンゲージメント向上に、360度評価が効果を発揮します。
上司だけでなく同僚や部下からも評価を受けるので、自分の頑張りが周りに認められていると実感できます。「上司は見ていないかもしれないけど、同僚は自分の仕事ぶりをちゃんと見てくれていたんだ」と気づくことで、やりがいにつながるわけです。
他人からのフィードバックは、成長のためのヒントになります。「こんな風に頑張ればもっと認めてもらえるんだ」と前向きなモチベーションが湧いてくるはずです。
人材育成につなげるため
360度評価の結果は、人材育成にも役立ちます。自分では気づきにくい強みや弱みを、他の人の目線から教えてもらえるためです。
例えば、「同僚からこんな良い評価をもらえるなんて、この強みをもっと伸ばしていこう」「部下からこの点を指摘されたなら、確かに改善が必要だな」というように、自己成長のための具体的なヒントが得られます。
さらに、評価結果を踏まえて上司と面談をすることで、キャリア形成についても話し合うことができます。「自分のやりたい仕事はこうだけど、評価結果を見る限り、こういうスキルを身につけた方がいいのかもしれない」といった気づきを得られるかもしれません。
社員の成長意欲を引き出し、必要な研修を受講するきっかけにもなるでしょう。
管理職のマネジメント能力向上に効果的なため
360度評価は、管理職のマネジメント能力向上にも効果があります。普段は部下から直接言いにくいことでも、評価を通じて率直にフィードバックしてもらえるからです。
例えば、「上司はもっと部下の話に耳を傾けてほしい」「もう少し明確な指示を出してもらえるとありがたい」など、部下の声を知ることができます。
管理職にとって、自分のマネジメントスタイルを振り返る良い機会にもなります。「自分では上手くコミュニケーションをとれていると思っていたけど、部下はそう感じていなかったのか」と気づけば、改善のきっかけになるはずです。
部下の視点に立って考えることの大切さを実感できます。
360度評価の導入が失敗する原因
360度評価は、正しく使えば組織と個人の成長を促す心強い制度になり得ますが、導入に失敗して効果を発揮できないケースも多いです。
時間とコストをかけて始めたのに、社員の士気が下がったり、人間関係が悪化したりなど、逆効果になってしまうと元も子もありません。
しかし、そういう失敗の多くは、導入や運用の方法に原因があります。制度の問題というよりは、人やマネジメントの問題と言えるのかもしれません。
以下では、360度評価の導入が失敗する原因を絞って、ひとつひとつ詳しく見ていきたいと思います。
・導入目的が不明確なまま360度評価を始めてしまう
・評価結果を給与や賞与に直結させてしまう
・評価項目が多すぎて負担が大きい
・評価後のフォローを疎かにしてしまう
導入目的が不明確なまま360度評価を始めてしまう
360度評価を導入する際に大切なのは、「なぜやるのか」ということをはっきりさせることです。しかし、意外とこの目的意識がないことも多いのです。
目的が現場の人たちに伝わっていなければ、的を射たフィードバックは期待できません。さらに、目的が共有できていないと、従業員からすれば「また面倒な仕事を増やされた」と感じてしまいます。
せっかくの360度評価が形だけのものにならないように、「なぜやるのか?」ということを根気強く説明して、従業員に理解してもらうことがとても大事になります。
だからこそ、人事部門では「360度評価をやりましょう」と言う前に、自分たちでしっかり目的を整理して、それを現場の人たちに丁寧に説明する必要があります。
「こういう目的で360度評価を導入する」「だからこういうフィードバックをしてほしい」というように、具体的に伝えていくことが大切です。
評価結果を給与や賞与に直結させてしまう
360度評価の結果を給料やボーナスに直接反映させるのは、あまりおすすめできません。
直接反映する仕組みにしてしまうと、自分の利益のために不適切な評価をする人が出てしまう可能性があります。
具体例には、「上司にいい評価をつけておけば、自分の評価も上がるだろう」といったような打算的な行動や、逆に「あの人とは相性が悪いから、評価を下げよう」というような気持ちでつけられる評価が出てきてしまいます。
そうなると、実態とはかけ離れたフィードバックが増えてしまって、本来の目的である従業員の能力開発どころか、モチベーションを下げる結果になりかねません。せっかく人事評価の公平性を重視しているのに、かえって不公平感を生んでしまう恐れがあります。
そのため、360度評価はあくまでも「能力開発」や「スキルアップ」に特化したツールとして使うのが良く、給与や賞与とは切り離すことを最初から従業員に伝えておくことで、安心して本音のフィードバックができるようになるはずです。
評価項目が多すぎて負担が大きい
360度評価を導入するときに気をつけたいのが、評価項目の数を必要最小限に絞り込むことです。
様々な立場から多角的に評価するのが360度評価の特徴なので、どうしても評価項目が多くなりがちです。しかし、そうすると評価を行う従業員の負担が大きくなってしまいます。
目安は、1人の評価に15分ほどで回答できる項目数が適切です。選択式の質問は30個ほど、自由記述は1〜2個に抑えるのが良いでしょう。
もし評価項目数が多い場合、途中で集中力が切れてしまいます。後半にある項目は適当に答えてしまうということも考えられます。そうなってしまうと、せっかくの多面的な評価も意味が無くなります。
従業員のやる気を削がないためにも、評価シートの設計には細心の注意が必要です。
評価後のフォローを疎かにしてしまう
360度評価はやりっぱなしにすると効果を発揮しづらく、評価した後のフィードバックとフォローが重要になります。貴重な評価を集めたのであれば、それを個々の従業員の成長につなげていくことが360度評価の目的になります。
しかし、評価後の振り返り面談を行わなかったり、PDCAサイクルでの管理がおろそかになったりすることで、せっかくの評価を活かしきれないケースがあります。
特に注意したいのが、ネガティブな評価へのフォローです。経験の浅い従業員や、部下からキツめの評価を受けた管理職などは、精神的なダメージを受けやすいのです。適切なケアをしなければ、やる気をなくしてしまう可能性があります。
そのため、評価後のフィードバックとフォローは、360度評価の運用プロセスに最初から組み込んでおきましょう。前向きな行動の変化を促すためには、良い点と改善点のバランスを取りながら、具体的な行動につなげていくことが求められます。
360度評価の導入企業まとめ
いくつかの企業の360度評価導入事例を見てきましたが、共通しているのは、360度評価を単なる評価制度としてではなく、組織と個人の成長を促すための戦略的な取り組みとして位置づけていることです。
評価そのものよりも、むしろ評価を通じたコミュニケーションや気づきを大切にしています。上司と部下、同僚同士の率直な対話を通じて、お互いの理解を深め、成長につなげようとしているような前向きな姿勢が、どの事例からも分かります。
何よりも大切なのは、評価を通じて組織全体で学び合おうとする文化を作ることです。
上司も部下も立場の違いを超えて、お互いの良いところを認め合い、課題を共有して成長を目指すといったように、オープンでポジティブな気持ちがあれば、360度評価は役立つ制度になるはずです。
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