従業員エンゲージメントとは?向上させるための施策や事例を詳しく解説
「従業員エンゲージメント」という言葉をよく耳にしませんか?人的資本経営が重視される今、この概念は企業の成長と従業員の働きがいを結びつける要素として、ますます注目を集めています。
エンゲージメントを深く理解し、向上させることは、優秀な人材の獲得・定着、生産性の向上、組織全体の活性化に直結し、人事戦略を成功に導く上で不可欠な要素です。しかし、「満足度とは何が違うの?」「具体的にどうすれば高められるの?」といった疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、従業員エンゲージメントの基本から、なぜ今注目されているのか、その構成要素、類似する言葉との違い、向上させることによる経営上のメリット、そして日本企業が直面している課題と具体的な解決策まで、人事担当者の皆様がすぐに活用できるよう、わかりやすく解説していきます。
目次
従業員エンゲージメントとは?
従業員エンゲージメントは、単に仕事への満足感を示すだけではありません。より深く、多面的な意味合いを持っています。
ここでは、その本質と注目される背景を掘り下げていきましょう。
会社と従業員の信頼にもとづく新しい関係性を示す指標
従業員エンゲージメントとは、従業員が会社に対してどれだけ愛着を持ち、「貢献したい」と前向きに考えているかを示すものです。
具体的には、仕事や組織への情熱、働きがい、会社への信頼などが含まれます。これは、給与や待遇への満足度(従業員満足度)とは違い、会社と従業員の「相互理解・相思相愛の度合い」や、自ら進んで貢献しようとする意欲を測る点が特徴です。
学術的にも、仕事へのポジティブな心理状態や、仕事と職場への関与と熱意として研究されてきました。大切なのは、エンゲージメントが高い状態とは、会社への深い信頼と理解に基づき、組織への愛着や貢献意欲を強く持っている状態を指すことです。
この「相互の関係性」と「従業員の能動性」がエンゲージメントの本質であり、従業員自身が組織の成功に向けて積極的に関与し、貢献しようとする意志を持つことを意味します。
人的資本経営や人材不足など注目される4つの背景
従業員エンゲージメントが近年、特に重視されるようになった背景には、いくつかの要因が関係しています。
- 人的資本経営(HCM)の流れ:従業員をコストではなく、価値を高めるべき「資本」と捉える考え方が広まった
- 深刻化する人材不足と定着の課題:少子高齢化や終身雇用の変化により、人材確保と定着は多くの企業にとって重要な経営課題となっている
- 変化の激しい市場環境への対応:ビジネス環境が急速に変化する中で、企業が競争力を保つには、変化に素早く対応できる組織能力が必要
- 働きがいや価値観の多様化:現代の従業員は、給与だけでなく、仕事の意義、自己成長、良好な人間関係、ワークライフバランスなど多様な価値観を重視する
これらの背景は互いに関連しており、エンゲージメント向上への取り組みは、現代の複合的な経営課題に対応するための戦略的な投資と言えるでしょう。
従業員エンゲージメントの構成要素と理解すべき3つのタイプ
エンゲージメントを効果的に高めるには、その構造を理解し、従業員の状態を把握することが大切です。
ここでは、エンゲージメントの主な構成要素と、従業員の熱意度による分類を解説します。
構成要素は会社への共感・愛着・貢献意欲の3つ
従業員エンゲージメントの構成要素として、コンサルティングファームのウイリス・タワーズワトソン(WTW)が提唱する以下の3つがよく参照されます。
- 理解度:会社のビジョンや戦略を従業員が理解し、納得して支持している状態
- 共感度:組織や仲間に対して、誇り、一体感、愛着(愛社精神)といった感情的な繋がりを感じている状態
- 行動意欲:組織の成功のために、求められる以上に自発的に貢献しようとする意欲がある状態
3要素は互いに関連しており、バランス良く高める視点が重要です。特に「行動意欲」は、エンゲージメントを業績に結びつける重要な要素となります。
熱意度で従業員は3タイプに分類される
米国の調査会社ギャラップ社は、従業員をエンゲージメント(仕事への熱意度)のレベルに応じて、主に以下の3タイプに分類しています。
- エンゲージしている従業員:仕事や職場に熱意を持ち、自社のミッションに共感し、組織を前進させる力となる
- エンゲージしていない従業員:仕事に心理的に関与しておらず、最低限の業務はこなすものの、情熱や自発的な貢献は見られない
- 積極的にディスエンゲージしている従業員:仕事への不満を抱え、それを周囲に広め、他の従業員の努力を妨げることさえある
世界平均(21〜23%程度)と比較すると、日本の状況は深刻です。特に「エンゲージしていない」従業員が大多数を占める点に注目すべきでしょう。この中間層のエンゲージメントを少しでも引き上げることが、日本企業にとって大きなポイントとなります。
従業員エンゲージメントと類似概念との違い
従業員エンゲージメント(EE)は、「従業員満足度(ES)」「モチベーション」「ワークエンゲージメント(WE)」といった言葉と混同されがちです。
しかし、それぞれ意味合いが異なるため、違いを理解することが効果的な施策に繋がります。
概念 | 定義 | 焦点 | 関係性の種類 | 主な違い |
---|---|---|---|---|
従業員エンゲージメント(EE) | 組織への愛着・貢献意欲を含む、従業員の組織・仕事へのポジティブな関与・熱意の度合い | 組織全体と仕事 | 双方向 | 組織への貢献意欲・関係性を含む広範な概念 |
従業員満足度(ES) | 給与・待遇・環境など、会社から与えられるものへの満足度 | 労働条件・環境 | 一方向 | 待遇への満足が中心で、貢献意欲とは必ずしも一致しない |
モチベーション | 目標に向かう個人の内的な意欲・エネルギー | 個人の意欲 | 個人内 | 個人の心理状態であり、組織との関係性を直接的には含まない |
ワークエンゲージメント(WE) | 仕事そのものへの活力・熱意・没頭 | 仕事自体 | 主に個人と仕事 | 仕事へのポジティブな心理状態に特化し、組織全体への愛着・貢献意欲は主眼ではない |
満足度は待遇への満足であり貢献意欲とは違う
従業員満足度(ES)は、給与や福利厚生、労働時間など、会社から提供される待遇に対する従業員の「満足の度合い」を測るものです。これは主に、従業員が会社から「受け取る」ものへの評価であり、一方向的な性質を持ちます。
一方、従業員エンゲージメントは、会社と従業員の「双方向」の関係性に基づき、従業員が組織に対して抱く愛着心や、自発的に「貢献したい」という意欲を含みます。
満足度が高くても、エンゲージメントが高いとは限りません。満足度は待遇が悪化すれば失われる可能性がありますが、信頼に基づくエンゲージメントはより持続的と考えられます。
モチベーションは個人の意欲で組織との関係性ではない
モチベーションは、目標達成に向けて行動を起こすための個人の内的な「意欲」や「エネルギー」を指します。これは個人の心理状態に焦点を当てた概念です。
従業員エンゲージメントは、個人のモチベーションを含みつつ、その意欲が「組織との関係性」の中でどう発揮されるか、つまり従業員と組織との信頼、共感、目標共有といった繋がりを含めて捉えます。モチベーションは短期的に変動しやすいですが、エンゲージメントはより長期的で持続的な状態とされます。
ワークエンゲージメントは仕事への熱意であり組織愛着は含まない
ワークエンゲージメント(WE)は、従業員が自身の「仕事そのもの」に対して抱くポジティブで充実した心理状態を指します。学術的には「活力」「熱意」「没頭」の3要素で定義されることが多いです。
これに対し、従業員エンゲージメント(EE)は、仕事への熱意に加えて、「組織全体」への愛着、貢献意欲、目標への共感といった、組織との関係性を含む、より広い概念です。EEはWEの要素を含みつつ、組織へのコミットメントという側面を加えたものと理解できます。
これらの違いを理解し、自社の課題に合わせて適切な概念に焦点を当てることが重要です。
従業員エンゲージメント向上がもたらす具体的な経営メリット
従業員エンゲージメントを高めることは、職場環境の改善だけでなく、企業の経営成績に直結する具体的なメリットをもたらします。
生産性や収益性が上がるというデータがある
エンゲージメントの高い従業員は、仕事への意欲が高く、自発的に業務改善に取り組むため、生産性が向上します。
ギャラップ社の調査では、エンゲージメントレベル上位25%のチームは、下位25%と比較して生産性が14〜18%高いという結果があります。
また、同調査では収益性も23%高いことが示されています。
離職率が下がり優秀な人材が定着しやすくなる
エンゲージメント向上は、人材の定着率向上に大きく貢献します。
エンゲージメントが高い従業員は、自社への愛着が強く、「働き続けたい」と考えます。ギャラップ社のデータによると、エンゲージメントが高い組織では離職率が大幅に低いことがわかっています。
特に優秀な人材は成長や貢献を実感できる環境を求めるため、エンゲージメントの高い職場はこうした従業員を引き留める上で効果的です。採用・育成コストの削減にも繋がります。
従業員の熱意は顧客満足度(CS)の向上にもつながる
従業員のエンゲージメントは、顧客満足度(CS)にも直接影響します。
エンゲージメントの高い従業員は、自社の製品やサービスに誇りを持ち、顧客に対して熱心で質の高いサービスを提供する傾向があります。
ギャラップ社の調査では、エンゲージメントが高いチームは顧客ロイヤルティに関する指標が10%高いことが示されています。
社内が活性化してイノベーションが生まれやすい組織になる
エンゲージメントの高い従業員は、自社の成功を自分事と捉え、積極的にアイデアを提案します。
職場全体の活性化に繋がり、新しい発想が生まれやすい組織風土を醸成します。従業員同士のコミュニケーションや協力も促進され、イノベーションが生まれやすくなります。
「働きがい」が企業の魅力を上げ採用に有利になる
エンゲージメントが高く、「働きがい」のある企業という評判は、企業のブランドイメージを高め、採用活動で有利になります。
求職者は企業の文化や働きがいを重視しており、エンゲージメントの高い企業は魅力的な選択肢となります。
日本企業の従業員エンゲージメントはなぜ低い?
多くのメリットがあるにも関わらず、日本の従業員エンゲージメントは国際的に見て低い水準にあります。その背景を探ってみましょう。
日本のエンゲージメント率は世界最低レベルにある
ギャラップ社などの国際調査によると、日本の「熱意あふれる(エンゲージしている)」従業員の割合は、世界平均(近年20%超)を大きく下回り、わずか5〜6%という結果が続いています。これは調査対象国の中で最下位レベルです。
さらに、「やる気のない」従業員が約70%、「周囲に不満をまき散らしている」従業員が約24%もいるという推計は、日本企業の組織活力における大きな課題を示しています。
課題は組織への愛着と評価・キャリアへの納得感の低さ
日本のエンゲージメントが低い具体的な要因としては、いくつかの点が挙げられます。まず、仕事自体への熱意に比べ、所属する組織への愛着や帰属意識が低い傾向が見られます。
また、人事評価の公平性や透明性に対する納得感が低いことも、エンゲージメントを妨げる大きな要因です。自身の成長やキャリアパスに対する不安感、会社からの支援不足を感じている従業員も多いようです。
これらの要因が、従業員と組織のポジティブな繋がりを妨げていると考えられます。
ミドル層や一般社員・非正規雇用者で特に低い傾向がある
エンゲージメントの低さは、特定の層で特に顕著です。30代から50代のミドル層では、組織コミットメントが低下する傾向が見られます。
また、経営層・管理職層と一般社員層との間には大きなギャップがあり、一般社員のエンゲージメントは非正規雇用者より低い場合もあります。
非正規雇用者も、正規雇用者に比べてエンゲージメントが低い傾向があります。雇用の不安定さなどが影響していると考えられます。
従業員エンゲージメント向上に欠かせない6つの促進要因
エンゲージメントを高めるには、その原動力となる本質的な要因に働きかけることが重要です。
ここでは、不可欠とされる6つの主要な促進要因を解説します。
要因1:会社の存在意義と個人の働きがいを結びつける
従業員が「何のために働いているのか」を理解し、共感できることがエンゲージメントの根幹です。
会社が目指す方向性や社会での存在意義(パーパス)、価値観を明確にし、従業員に伝え続けることが大切です。
従業員一人ひとりが、自分の仕事が会社の目標や社会貢献にどう繋がっているか理解できるよう支援しましょう。
要因2:成長を実感できる機会の提供とキャリア支援
従業員が自身の成長を感じられる環境は、エンゲージメント維持・向上に不可欠です。
研修、挑戦的な業務、資格取得支援、社内公募など、多様な学びと成長の機会を提供しましょう。
また、従業員のキャリアパス設計と実現を支援することも大切であり、「キャリア自律」を促す視点が求められます。従業員が「成長している」と実感できるような、具体的なフィードバックや可視化の仕組みも重要になります。
要因3:公平で透明性の高い人事評価とフィードバック
評価や処遇への納得感は、従業員の信頼とエンゲージメントに直結します。評価基準やプロセスを明確にし、公開することで、客観性と透明性を確保しましょう。
不公平感はエンゲージメントを大きく損なうものです。定期的な評価面談だけでなく、日々のタイムリーで建設的なフィードバックが重要であり、1on1などを活用して具体的に伝えることが推奨されます。
成果や貢献を認め、感謝を伝え合う文化を育むことも効果的でしょう。
要因4:安心して発言・挑戦できる心理的安全性の確保
従業員が能力を発揮するには、心理的に安全だと感じられる環境が必要です。
心理的安全性とは、チーム内で対人関係のリスクを恐れずに、自分の考えを表現したり、質問したり、挑戦したりできる状態を指します。心理的安全性が高いと、オープンなコミュニケーションや活発な意見交換が促進され、エンゲージメントが高まります。
リーダーが率先して傾聴し、異なる意見を歓迎し、失敗を責めずに学びの機会と捉える姿勢が重要となるでしょう。
要因5:仕事での貢献実感と良好な人間関係づくり
日々の仕事での達成感や、周囲とのポジティブな関係性もエンゲージメントを支えます。
自分の仕事がチームや組織の目標達成、あるいは顧客や社会の役に立っていると実感できることが重要です。上司や同僚との信頼に基づいた良好な関係はエンゲージメントの基盤であり、互いに尊重し、サポートし合えるチームワークが求められます。
定例ミーティングや1on1、社内SNSなどで対話を促し、相互理解を深めましょう。
要因6:柔軟な働き方とワークライフバランスの支援
仕事と私生活を両立し、心身ともに健康でいられる環境整備は、持続的なエンゲージメントに不可欠です。
テレワーク、フレックスタイム、時短勤務など、従業員の状況に合わせた働き方を可能にすることは、エンゲージメント向上に繋がるでしょう。長時間労働の是正や有給休暇取得の奨励などを通じ、従業員が仕事以外の時間も大切にできる配慮も必要となります。
メンタルヘルスケアのサポートなど、従業員の幸福(ウェルビーイング)全般を支援することも大切です。
従業員エンゲージメントを測定し可視化するための方法
エンゲージメント向上のためには、まず現状を正確に把握し、課題を特定することがスタートラインです。
ここでは、代表的な測定・可視化の手法を紹介します。
手法 | 頻度 | 範囲/焦点 | 主な利点 | 主な欠点 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|---|
エンゲージメントサーベイ | 年1〜2回 | 組織全体、多角的、根本原因 | 深い診断、網羅性 | 頻度が低い、結果判明まで時間 | 全社的な課題特定、戦略立案、定点観測 |
パルスサーベイ | 週1〜月1回 | 特定テーマ、変化の追跡 | リアルタイム把握、迅速対応 | 診断の深さに限界、回答疲れリスク | 状況の定点観測、施策効果測定、早期アラート |
eNPS℠ | 定期的(任意) | 従業員の推奨度、ロイヤルティ | シンプル、強力な指標 | 背景要因の把握には追加質問が必要 | 全体的な健全性指標、離職リスク把握 |
1on1ミーティング | 週1〜月1回 | 個別状況、質的情報、関係構築 | 深い理解、個別対応、信頼醸成 | 拡張性、主観性、上司のスキル依存 | 個別フォロー、課題の深掘り、キャリア支援、信頼関係構築 |
エンゲージメントサーベイは目的共有から改善までが大切
年に1〜2回程度実施される網羅的な調査で、組織全体のエンゲージメントレベルや背景要因、属性ごとの傾向などを把握し、根本的な課題特定を目指すものです。
成功のためには、調査目的の明確化と共有、適切な設問設計、詳細な分析、そして分析結果に基づいた具体的な改善計画の策定・実行と、従業員へのフィードバックまで、一連のプロセス全体を丁寧に進めることが重要となります。
パルスサーベイで従業員の意識変化をこまめにチェック
パルスサーベイは、週1回や月1回など、高い頻度で行う設問数の少ない簡易調査です。
従業員のコンディションや意識の変化をリアルタイムに近い形で把握することを目的とします。
問題の早期発見・早期対応や、施策効果の迅速な測定に役立ちますが、根本的な課題の深掘りには限界があり、頻度が高すぎると「サーベイ疲れ」を招く可能性もあります。
eNPS℠は従業員の推奨度を測り課題発見に役立つ
eNPS℠(EmployeeNetPromoterScore)は、「現在の職場を親しい友人や知人にどの程度すすめたいか?」というシンプルな質問への回答(0〜10点)に基づき、従業員のロイヤルティを測る手法です。
回答者は点数で「推奨者(9-10点)」「中立者(7-8点)」「批判者(0-6点)」に分類され、「推奨者の割合(%)-批判者の割合(%)」でスコア(-100〜+100)を算出します。スコアだけでなく、「その点数を付けた理由」を尋ねることで、具体的な課題要因を探ることも可能です。
1on1ミーティングで個々の従業員の状況を把握する
1on1ミーティングは、上司と部下が定期的に行う1対1の面談です。業務進捗だけでなく、部下のキャリア、成長、悩み、モチベーションなどに焦点を当てた対話の場です。
サーベイでは捉えきれない個々の状況や考えといった「質的」な情報を深く理解するのに有効です。信頼関係を築き、心理的安全性を高め、個別の課題発見やサポートに繋げられます。
ただし、上司のスキルが求められ、形式的な実施にならないよう注意が必要です。
明日からできる従業員エンゲージメントを高める施策
エンゲージメント向上は、大規模な改革だけでなく、日々の小さな行動の積み重ねでも実現できます。
ここでは、比較的すぐに始められる施策を紹介します。
経営層がビジョンを伝え従業員の共感を促す
経営層や管理職が、自社の存在意義(パーパス)や目指す姿(ビジョン)を、自分の言葉で情熱を持って繰り返し伝えることが大切です。全社集会や日々のコミュニケーションなど、あらゆる機会を活用しましょう。
従業員の「理解度」と「共感度」を高め、なぜこの事業を行うのかという「Why」を共有することで、従業員は仕事に意味を見出しやすくなります。
日常的な承認や称賛で良い組織文化をつくる
上司や同僚が良い仕事や努力、貢献に対して、具体的かつタイムリーに「ありがとう」「助かったよ」といった承認や称賛の言葉をかけ合うことを習慣にしましょう。
サンクスカードなどの仕組みも有効です。従業員が「見てもらえている」「認められている」と感じられるようにし、ポジティブな行動が強化され、互いを尊重し感謝し合う文化が育まれます。
多様な成長機会を提供しキャリア自律を支援する
新しい知識やスキルを学べる機会(研修奨励、書籍購入補助など)や、少し挑戦的な業務を提供します。
1on1などを通じてキャリアプランについて話し合い、実現を支援すること(キャリア自律支援)も大切です。
これにより、従業員が「この会社で成長できる」と実感できるようになり、自己効力感を高め、将来への希望を持たせます。
心理的安全性を高めるための行動を実践する
マネージャーが率先して、メンバーの話を最後まで聞く(傾聴)、異なる意見を歓迎する、自身の弱みを開示する、ミスを責めずに原因究明に焦点を当てる、といった行動を意識します。
全員に発言機会を設ける工夫も有効でしょう。メンバーが安心して本音を話したり、新しいアイデアを試したりできる環境を作り、建設的な議論や学び合いを促進することが目的です。
リモートワークでも一体感を保つ工夫をする
リモートワークの場合、意識的にコミュニケーション機会を設けることが大切です。
雑談チャンネル、定期的なオンライン/オフライン懇親会、バーチャルオフィス活用などが考えられます。公平な情報共有も心がけましょう。
物理的に離れていても、従業員が孤独を感じず、チームや組織との繋がり、共通目標への意識を維持できるよう支援します。
従業員エンゲージメント向上施策で失敗しないための注意点
エンゲージメント向上施策も、進め方を誤ると逆効果になることがあります。
よくある失敗パターンとその回避策を見ていきましょう。
注意点1:施策の目的を従業員と共有し納得感を得る
なぜサーベイや施策を行うのか、目的や背景を十分に説明しないまま進めると、従業員は「やらされ感」や不信感を抱き、協力が得られにくくなります。
実施前に目的、期待効果、結果の活用方法などを明確に説明し、従業員の理解と納得感を得ることが不可欠です。
注意点2:サーベイ結果を分析し改善行動につなげる
サーベイを実施したものの、データを分析せず放置したり、具体的な改善アクションに結びつけなかったりすると、組織改善が進みません。
従業員は「協力しても無駄」と感じ、次回以降の協力意欲を失うことになります(サーベイ・ファティーグ)。
分析プロセスとアクションプラン策定・実行までを計画に含め、具体的で実行可能な改善策を実行に移しましょう。
注意点3:調査結果と改善計画を従業員に伝える
サーベイ結果や改善計画を従業員にフィードバックしないと、従業員は「自分たちの声がどうなったか分からない」と感じ、不信感を募らせます。
改善していても意図が伝わらなければ評価されません。調査結果の概要と課題、具体的な改善計画をオープンに共有し、進捗状況も定期的に報告することが望ましいでしょう。
注意点4:経営層が本気で取り組み続ける姿勢を示す
経営層がエンゲージメント向上を一過性のものと捉え、実際の行動が伴わない、あるいは途中で関与しなくなると、施策は現場に浸透せず形骸化します。
経営トップ自らが重要性を語り、模範を示し、必要なリソースを継続的に投入する姿勢が不可欠です。
長期的な取り組みであるという認識を持つことが重要となります。
注意点5:1on1ミーティングを形骸化させない工夫をする
1on1が単なる業務報告の場になったり、上司が一方的に話したり、形式的な面談になったりすると、本来の目的(部下の成長支援、関係構築など)が達成されず、時間の無駄になってしまいます。
1on1の目的を明確にし、業務報告とは切り離しましょう。上司は傾聴と質問を中心に、部下が主体的に話せる場作りを心がけることが大切です。
従業員エンゲージメントに関するよくある質問
エンゲージメントに関して、人事担当者の方が抱えるよくある質問にお答えします。
エンゲージメント向上は本当に業績アップにつながるのですか?
はい、多くの調査データが強い関連性を示しています。ギャラップ社の調査では、エンゲージメントが高いチームは低いチームに比べ、生産性が14〜18%、収益性が23%高いという結果があります。
エンゲージメントが高い従業員は、生産性向上、イノベーション促進、顧客満足度向上、離職率低下など、様々な面から業績向上に貢献すると考えられます。
エンゲージメント施策の効果はどれくらいの期間で現れますか?
施策によりますが、即効性を期待せず、中長期的な視点が必要です。
従業員の意識変化はパルスサーベイなどで比較的短期(数ヶ月)で捉えられることもありますが、組織文化の変革や業績への明確な影響には年単位での継続的な取り組みが求められることが多いです。
焦らずPDCAサイクルを回し続けることが重要です。
エンゲージメントサーベイの回答率が低い場合どうすれば良いですか?
低い回答率は問題です。
対策として、下記などが考えられます。
- 目的と意義の再伝達(なぜ調査し、どう活かされ、どんなメリットがあるか説明)
- 匿名性の保証と周知
- 設問や実施方法の見直し(負担軽減)
- リマインダー送付
- 過去の対応の信頼回復(今回は必ず改善すると約束)
中小企業でもエンゲージメント向上に取り組むメリットはありますか?
はい、大いにあります。むしろリソースが限られる中小企業にとってこそ重要です。
人材確保と定着、生産性向上、組織力強化とイノベーション、顧客満足度向上といったメリットが期待できます 。
【まとめ】従業員エンゲージメントは企業と従業員の成長を実現する
この記事では、従業員エンゲージメントについて、その定義から重要性、測定方法、向上策、そして日本企業の現状まで幅広く解説しました。
従業員エンゲージメントは、単なる満足感ではなく、企業と従業員の信頼に基づく、自発的な貢献意欲を示すものです。「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素から成り立ちます。
人的資本経営、人材不足、市場変化、価値観の多様化といった背景から、その重要性は増しています。
エンゲージメント向上は、生産性・収益性向上、離職率低下、顧客満足度向上、イノベーション促進、採用力強化など、多くの経営メリットをもたらします。
しかし、日本のエンゲージメントは世界最低レベルであり、特に組織への愛着や評価・キャリアへの納得感の低さが課題です。ミドル層や一般社員、非正規雇用者で低い傾向も見られます。
向上には、以下のような要因への働きかけが重要です。
- 存在意義と働きがいの接続
- 成長機会とキャリア支援
- 公平な評価とフィードバック
- 心理的安全性
- 貢献実感と良好な人間関係
- 柔軟な働き方とWLB支援
測定にはエンゲージメントサーベイ、パルスサーベイ、eNPS℠、1on1ミーティングなどを活用し、必ず分析・改善・フィードバックに繋げることが成功のポイントとなります。
エンゲージメント向上は一朝一夕にはいきませんが、企業が従業員と真摯に向き合い、働きがいと成長を支援することで、従業員の信頼と貢献意欲は高まります。
「CBASE 360°」は、株式会社シーベースが提供するHRクラウドシステムです。経営を導く戦略人事を目指す人事向けのお役立ち情報をコラムでご紹介します。